企業理念は、会社の“心臓”とも言える存在です。理念が曖昧なままだと、採用や社員の定着、事業の方向性にもブレが生じます。
本記事では、有名企業の理念事例をもとに、実際に“伝わる”理念をどう作るかを解説します。
理念づくりで迷っている方にこそ読んでほしい保存版です。
第1章:企業理念とは何か?役割と基本構造
企業理念の定義と構成|ミッション・ビジョン・バリューの違い
「企業理念」とは、企業が存在する意義や、将来的に目指す方向性、そして行動規範を言語化したものです。
経営者の想いを言葉にした“企業の原点”とも言える存在です。
一般的に企業理念は3つの要素で構成されます。
1つ目がミッション(Mission)=使命。
企業が「何のために存在するのか?」を示します。
2つ目がビジョン(Vision)=将来像。
組織として「どこを目指しているのか?」という未来への宣言です。
3つ目がバリュー(Value)=価値観。
社員一人ひとりの「どう行動すべきか?」の指針となる要素です。

よく“ミッションとビジョンの違い”って混乱されがちですよね。自社で使い分けできてますか?
たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリング社の理念は、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。
この1文の中にミッション、ビジョン、バリューがすべて込められています。
企業理念が果たす3つの役割
企業理念は、単なるスローガンではありません。
次のように、組織運営において重要な“3つの役割”を担います。
①経営指針としての役割
経営判断の拠り所として、理念は経営者の羅針盤になります。
「利益を取るか、社会的責任を重視するか」など、経営上のジレンマが起きたときにも、理念が一貫性を保つ軸になります。
②組織文化の形成
共通の価値観として理念が存在することで、社員の判断や行動にブレが生じにくくなります。
採用や教育にも一貫性が出て、「あの会社らしいよね」という企業文化が育まれていきます。
③社外へのブランドメッセージ
理念は、顧客・投資家・採用候補者へのメッセージでもあります。
理念に共感する人が集まり、結果的にファンや支持者を増やす効果もあります。

理念を“社内向け”だけに使っている企業、結構多い気がします。すごくもったいないです。
理念を持つことで何が変わるのか?
企業理念が明文化されていない組織では、こんな問題が起きやすくなります。
-
社員の意思決定に一貫性がない
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採用した人材と会社がミスマッチ
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ブランドメッセージが曖昧で外に伝わらない
一方で、理念が社内外に浸透している企業は、社員のモチベーションが安定し、採用活動でも「理念に共感したから入社した」という応募者が増えます。
投資家からの評価が高まるケースもあります。
人的資本開示が進む中、理念は「企業の本気度」を映す鏡ともいえるでしょう。
まとめ
企業理念とは、単なるお題目ではなく、「企業の行動原理」「文化の核」「社外メッセージ」という複数の役割を担っています。
これを軸に経営判断ができる企業ほど、組織としての強さが際立ちます。
次章では、そんな理念が“なぜ刺さるのか”を実例を交えて紐解いていきます。
第2章:有名企業の理念に学ぶ成功パターン
企業理念の重要性が語られる中、実際に強い理念を掲げ、成果につなげている企業は少なくありません。
この章では、トヨタ・京セラ・リクルート・KDDIといった代表的な企業の理念を紹介しながら、成功の要因を読み解きます。
トヨタの理念|“顧客と社会”に軸足を置く
トヨタ自動車の理念の中心にあるのは「クルマを通じて豊かな社会づくりに貢献する」こと。
つまり単なる“モノづくり”ではなく、社会との接点・価値提供に主眼が置かれています。
また、トヨタでは「トヨタウェイ(Toyota Way)」という行動指針が明文化されており、「改善」と「尊重」が全社員の行動のベースになっています。
一貫性と現場レベルの運用力が、理念浸透の強さを支えている好例です。

理念って“壁に貼るだけ”で終わってる会社、意外と多いですよね。
京セラ|稲盛イズムの結晶「敬天愛人」
京セラの創業者・稲盛和夫氏が掲げた理念「敬天愛人(けいてんあいじん)」は、天を敬い人を愛すという哲学に根差しています。
これは経営者の人格や思想そのものが反映された理念であり、従業員の“心を高める経営”を軸に組織運営されています。
ビジョンやミッションという枠に収まらない、“思想型”の理念が強く共感を呼ぶ代表例です。

経営者の“生き様”がそのまま理念になるって、すごい力を持ちますよね。
リクルート|「個の可能性の最大化」
リクルートの企業理念は、「新しい価値の創造を通じて、個人の可能性を最大限に引き出す」こと。
ここで注目すべきは、「個」にフォーカスしたユニークさです。
組織の価値よりも個人の成長を尊重する文化は、リクルートが人材輩出企業と呼ばれる理由そのもの。
社内制度・評価・採用にいたるまで、この理念が色濃く反映されています。
KDDI|短いのに心に残る「心を高める」
KDDIの企業理念は「心を高めることがすべての原点」。
非常にシンプルで短いのに、記憶に残る設計です。
この言葉は、サービス品質や社員教育、組織文化に至るまで、一貫して“心のあり方”に焦点を当てています。
抽象的でありながらも、あらゆる行動に応用可能な“汎用性の高さ”がこの理念の強さです。
業界やフェーズで変わる理念の“構造”
企業理念は、業界特性や企業フェーズによって異なる“型”が存在します。
以下はその代表的なパターンです。
パターン | 特徴 | 適した企業フェーズ |
---|---|---|
哲学型 | 抽象度が高く、思想ベース | 創業期・老舗企業 |
目標型 | 数字や成果に近いビジョン構成 | 成長期・上場前後の企業 |
共感型 | 社員や顧客に訴えるメッセージ設計 | 採用強化・再編時 |
文化体現型 | 組織行動に落とし込みやすい | 安定期・多角化企業 |
まとめ
企業理念には“正解の型”があるわけではありません。
しかし、共通しているのは「理念を言葉で終わらせず、文化として実装している」ことです。
理念は“語る”ものではなく、“生きる”もの。
それを体現している企業ほど、人・組織・ブランドが強くなっているのです。
次章では、業界別にどのような理念が設計されているのか?を見ていきましょう。
第3章:企業理念の作り方|失敗しない5ステップ
「企業理念を作ろう」と決意しても、いざ手を動かす段階になると、手順や言葉選びで迷うことが多いものです。
この章では、企業理念をゼロから設計するための「失敗しない5ステップ」と、プロジェクトの進め方をご紹介します。
まず整理すべき「3つの構造」
理念づくりに着手する前に、以下の3つをしっかり区別して整理しておく必要があります。
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理念(Philosophy):企業の存在意義。なぜこの会社があるのか。
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目的(Mission):誰に何を提供するのか。社会的使命。
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価値(Value):どんな価値観で仕事をするのか。行動基準や美徳。
この3つが曖昧なまま言葉を作ろうとすると、表面的で陳腐な「いいことを書いただけ」の理念になってしまいます。

“理念らしい言葉”を書こうとして迷走するケース、多いんですよね。
ステップ①:現状分析と課題の言語化
まずは、現在の企業文化や経営課題を整理しましょう。
理念は「未来志向」で作るものですが、現場の声や課題感に根ざしていないと、誰にも響かないものになります。
経営陣や現場へのヒアリング、既存のスローガン・事業計画・採用広報の見直しも有効です。
ステップ②:ビジョンと価値観の言語化
次に、「この会社が向かいたい未来」と「どんな価値観を大切にしたいか」をワークショップ形式で深掘りします。
たとえば以下のような問いが効果的です。
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10年後、何を達成していたら誇れるか?
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自社らしい判断・行動とは何か?
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今の会社に欠けているものは何か?
こうした問いを経営層だけでなく現場も交えて議論することで、理念は“共通言語”になっていきます。
ステップ③:要素の統合と構造整理
集まったキーワードや方向性をもとに、理念の全体像を設計します。
多くの企業では以下のような構造を採用しています。
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パーパス(Purpose):企業の存在理由
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ビジョン(Vision):将来のありたい姿
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ミッション(Mission):果たすべき使命
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バリュー(Value):共通の価値観・行動指針
ここで大切なのは、「全部を詰め込まないこと」。
情報は削るほど伝わる。理念もコピーライティングと同じです。

“盛りすぎ理念”は逆効果です。スローガンじゃなくてポスターになっちゃいます。
ステップ④:表現の磨き込みとフィードバック
理念は“響いてナンボ”です。
表現に違和感がある場合は、外部のコピーライターや編集者に相談してもよいでしょう。
さらに、全社アンケートやインタビューを実施し、理念候補への「共感度」「わかりやすさ」「納得感」を検証します。
ステップ⑤:言語化と発表方法の設計
最終的な文言が決まったら、「どのタイミングで、誰が、どう発信するか」まで設計しましょう。
企業理念は言葉だけでなく、“語る人の姿勢”によって深みが変わるからです。
経営者が全社員の前で語る。
壁に掲示するだけでなく、研修や1on1で日常的に言及する。
こうした「運用設計」こそが理念定着の鍵になります。
理念策定プロジェクトの進め方
理想は「少数精鋭+全社巻き込み」のハイブリッド型。
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経営陣+現場代表+広報 or 人事で5~6名のコアチームをつくる
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ヒアリングやワークショップを複数回実施
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全社へのアンケートや草案フィードバックを得る
プロセスを共有することで、完成時には“みんなでつくった理念”として受け入れられやすくなります。
まとめ
理念づくりは、言葉の問題ではなく、組織の対話と覚悟の結晶です。
うまくいっている企業の理念には、「自分たちのリアル」と「これからの挑戦」が両方詰まっているのが共通点です。
次章では、実際に参考になる「企業理念の成功事例」を業種別に紹介していきます。
【第4章】業種別|理念の書き方と表現の工夫
企業理念は「普遍的な価値を示す言葉」である一方で、業種や事業特性に応じて表現や構造を最適化することが重要です。
この章では、主要な業種ごとの書き方のポイントや、理念タイプごとの違いを解説します。
業種別に見る理念の特徴と表現
■ 製造業|「品質」と「社会貢献」が柱に
製造業では、安全性や品質、地道な技術力への誇りを軸にした理念が多く見られます。
たとえば、トヨタの「常に時代の先を見つめ、変化に挑戦し続ける」は、技術革新と継続改善を融合させた言葉です。
製造業の理念では、顧客の安心感を支える信念が伝わるような表現が求められます。

理念でも“現場力”をどう言語化するかがキモになりますね。
■ IT業界|「変革性」と「スピード」を明示
IT企業では、革新性や未来志向が重視されます。
リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は、まさに“変化を前提とした自己変革”を体現しています。
短くて強いワード、抽象と具体のバランスを取るのが効果的です。
■ 建設・インフラ業|「信頼」と「安全」の価値を言語化
公共性の高い建設業では、「地域社会」「持続可能性」「誠実さ」などがキーワードになります。
理念には「人の暮らしを支える責任感」がにじむような言葉選びが必要です。
■ 医療・福祉業界|「人に寄り添う姿勢」を明確に
人命に関わる医療・福祉の理念は、共感・倫理・ケアの姿勢が前面に出ます。
感情的すぎず、かといって形式的でもない“適度な温度感”の表現が好まれます。
■ 飲食・小売|「楽しさ」と「おもてなし」が核に
BtoCの典型である飲食・小売では、お客様目線の喜びを理念に織り込むのが基本です。
「また来たいと思ってもらうこと」「笑顔を届ける」が理念の核になる場合が多く、口語的な表現も受け入れられやすいのが特徴です。
BtoBとBtoCで異なる「伝え方」
同じ企業理念でも、誰に向けて語るかによって、表現の優先順位が変わります。
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BtoB企業:信頼性・社会的責任・事業成長の方向性を明確に
-
BtoC企業:顧客体験・情緒的価値・ブランドイメージを重視
たとえば、同じ「安心を届ける」という理念でも、BtoBでは「堅実な体制や仕組み」で語り、BtoCでは「感情に訴える表現」が使われることが多いです。

BtoBで詩的すぎる理念だと「結局何が言いたいの?」ってなるんですよ。
表現タイプ別|理念スタイルの3分類
企業理念は、内容だけでなく「文体」や「構造」の工夫で印象が大きく変わります。
ここでは代表的な3タイプを紹介します。
■ スローガン型|短く覚えやすい一文
例:ユニクロ「服を変え、常識を変え、世界を変える」
キャッチーで社内外に浸透しやすい反面、深みや多面性に欠けることも。
■ 哲学型|思想・信条を込めた表現
例:京セラ「敬天愛人(天を敬い、人を愛する)」
抽象度が高く、理念を通じた“思考の深堀り”を促したい組織に向く。
■ 行動型|具体的な行動規範を提示
例:サイボウズ「100人100通りの働き方」
現場での行動と直結しやすく、理念と制度の連動を図りやすい。
まとめ
理念に“正解の型”はありませんが、業種や企業の成長フェーズによって、向いている構造や表現は異なります。
自社の文化とステークホルダーに合ったスタイルを選び、「心に残る言葉」を目指すことが重要です。
次章では、理念を自社の行動にどう落とし込むか――“浸透”と“活用”の具体策に迫ります。
【第5章】スタートアップ・中小企業の理念事例集
企業理念というと、大企業の格調高い言葉を思い浮かべがちですが、実はスタートアップや中小企業こそ、理念の力が問われる場面が多いものです。
この章では、「等身大」「共感性」「未来志向」をキーワードに、スタートアップ・中小企業の実際の理念事例を紹介しながら、作成・活用のヒントを解説していきます。
小さな会社だからこそ活きる“等身大の理念”
大企業の理念は抽象度が高く、理念=“掲げる旗”であることが多いです。
一方で、中小企業やスタートアップは、実際の行動と理念が直結しているからこそ、具体性と納得感が求められます。
たとえば「地域に愛される店であること」や「10人の幸せから世界を変える」など、誇張のない言葉の中に“自分たちらしさ”を込めることが、共感を呼ぶ理念につながります。

小さな会社ほど“等身大の言葉”が効くんですよね。
スタートアップ5社の理念事例
■ 株式会社メルカリ
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」
事業そのものが理念に直結しており、シンプルながら成長ビジョンが明快。
■ 株式会社SmartHR
「社会の非合理を、ハックする。」
HR業界における課題意識を鋭く表現し、共感とインパクトを両立。
■ 株式会社BASE
「誰でも、かんたんに、素敵なショップを。」
プロダクトの理念をそのままキャッチコピーに落とし込んだ秀逸な事例。
■ 株式会社Wewill
「“働く”をしなやかに、つよく。」
柔らかさと力強さの絶妙なバランス。働き方改革を体現した理念。
■ 株式会社POL
「理系の才能を、社会にひらく」
ターゲット(理系学生)に特化した共感性の高い表現が特長。
中小企業5社の理念事例
■ 有限会社やまもと製作所(町工場)
「見えない部分こそ、手を抜かない」
ものづくりの信念が伝わる職人気質な一文。
■ 株式会社サンエイ(建設業)
「つくるのは建物だけじゃない。街の未来だ。」
公共性の高い業種ならではの理念。社員の誇りにもつながる。
■ 株式会社いちかわ(介護・福祉)
「“ありがとう”を生み出す仕事をしよう」
感謝を軸に据えた理念は、スタッフのモチベーション形成に効果大。
■ カフェヒトトキ(個人経営飲食)
「お客様の“今日”を、ちょっといい日に。」
日常に寄り添う姿勢が込められた、温かみのある理念。
■ 株式会社レクシード(IT)
「失敗できる環境をつくる」
チャレンジを歓迎する文化を象徴するフレーズ。若手採用にも効果的。
投資家や新卒採用に響く“共感型”理念とは?
中小企業やスタートアップでは、企業理念が“採用力”や“資金調達力”に直結するケースも増えています。
■ ポイントは以下の3つ
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理念がサービスや行動と矛盾しないこと
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感情に訴える言葉選びをすること
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「なぜそれをやるのか?」の理由が語れること
理念は「かっこいいコピー」ではなく、会社の“覚悟”を表す言葉です。
理念が共感を呼べば、新卒や中途の応募者が「ここで働きたい」と思う動機になり、投資家にとっては“意思決定の拠り所”になります。

理念があるだけで、初対面の信頼感って段違いですよ。
まとめ
大企業のように整ったものでなくていい。
むしろ中小企業やスタートアップには、自分たちの言葉で描いた“等身大の理念”こそが武器になります。
事業の原点、創業の想い、未来への意志。
理念を言語化することで、組織に一本筋が通るのです。
次章では、企業理念を「どう伝え、どう浸透させるか」という実践フェーズに入っていきましょう。
【第6章】作った理念を“浸透”させる方法
企業理念は「作って終わり」ではなく、「どう社内に浸透させるか」が勝負です。
いくら美しい言葉を掲げても、社員が覚えておらず、日々の行動と結びついていなければ意味がありません。
この章では、理念を“飾り”にしないための浸透施策と、実際の企業での取り組み事例を紹介します。
理念は“壁に貼る”だけでは伝わらない
オフィスの壁に理念を掲げたり、Webサイトに載せたり――こうした“見える化”は第一歩として大切ですが、それだけでは社員の心に残りません。
理念を浸透させるには、「繰り返し触れる」「自分事として考える」仕組みが欠かせません。

口だけの理念は、社員にすぐ見抜かれますからね。
朝礼・掲示・研修・評価制度への組み込み方
■ 朝礼での“理念の読み上げ”
毎朝5秒だけ、理念のキーワードを復唱する企業もあります。単純な繰り返しですが、日々の積み重ねが意識の定着に繋がります。
■ 社内掲示やメール署名への掲載
意外と効果があるのが、メールの署名欄に理念を添える工夫。社外向けに発信する姿勢にもなり、ブランディングにも寄与します。
■ 社内研修での理念ワーク
新入社員研修やリーダー研修で、「自分の仕事と理念の接点を考える」ワークを取り入れる企業も増えています。
理念を“思考の起点”に使うことがポイントです。
■ 評価制度・人事考課と紐づける
理念に基づく行動を評価項目に含めることで、「理念が行動を決める」というサイクルが生まれます。
社員が覚えていない理念は意味がない
理念が長文すぎて社員に覚えられていない。
読みづらい言葉が多く、日常と乖離している――こうしたケースでは、「そもそもこの理念は誰のためにあるのか?」を見直す必要があります。
企業理念は社員のためにある。
その前提に立てば、社員が覚えられない理念は再構築が必要だといえます。

覚えてもらえない理念は、存在してないのと同じです。
理念を“行動に落とす”具体的な仕掛け
言葉で理念を語るだけでなく、「行動で示す」仕掛けが必要です。たとえば:
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月1回の「理念に沿った行動エピソード」共有会
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社内報で“理念を体現した社員”を紹介
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理念カードを配布し、いつでも確認できるようにする
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1on1で上司が“理念と仕事の接点”を語る機会を設ける
行動に落とし込むことで、理念が“会社の文化”として根づいていきます。
まとめ
企業理念は「存在しているだけ」では、社員の心には届きません。
ポイントは、
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毎日目にする
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仕事と結びつける
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自分ごとにする
この3つを徹底すること。
理念が社員の判断基準になり、行動を変え、組織文化を形づくっていく。
それが“浸透”のゴールです。
次章では、企業理念を見直すタイミングと注意点を掘り下げていきます。
【第7章】企業理念を見直すタイミングと注意点
「企業理念、うちにもあるけど…正直、誰も意識していない」。
そんな声を聞いたことはないでしょうか?
企業理念は、時代や組織の変化に応じて“見直し”が必要なケースがあります。
この章では、理念が形骸化するサインや、見直すベストタイミング、そして実際にリニューアルを経験した企業のリアルなエピソードを紹介します。
理念が形骸化したサインとは?
一見、理念があっても、それが“意味を持たない言葉”になっている企業は少なくありません。以下のような兆候があれば、要注意です。
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社員が企業理念を誰も言えない
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評価・行動・戦略と理念が結びついていない
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経営者自身が理念について語らなくなった
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「うちの理念って古いよね」と内輪で言われている
これらは、理念が現場で“生きていない”状態を示すサインです。

理念を誰も覚えていない時点で、すでに黄信号ですね。
見直しのベストタイミングとプロセス
では、理念の見直しはいつ、どのように行うべきなのでしょうか?
■ 見直しに適したタイミング
以下のような“節目”が見直しの好機です。
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代表者の交代
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事業領域の拡大や再定義
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新規上場や資金調達
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急成長による組織肥大化
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離職率の上昇やエンゲージメント低下
特に“戦略の方向性が大きく変わる局面”では、理念の再構築が組織のブレを防ぎます。
■ 理念見直しのプロセス(5ステップ)
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現行理念の棚卸し(社内アンケート・ワークショップ)
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事業・組織課題の再整理(経営層インタビュー)
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新たな理念案の設計(ワーディング含む)
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社内フィードバック→修正
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社内外への正式発表・浸透施策の展開
ポイントは「現場の声を取り入れること」です。トップダウンだけでは“自分ごと”になりません。

理念の見直しは“合宿1泊”では終わりません。覚悟が必要ですね。
経営理念リニューアルのリアル事例
ある老舗の建築会社では、創業から30年以上、理念を一度も見直していませんでした。
理念は「誠実に、信頼される企業であれ」というシンプルなものでしたが、若手社員からは「具体性がない」「何を大切にしているのか分からない」と不満が出ていたのです。
そこで経営層は、社内プロジェクトを立ち上げ、社員との対話を重ねながら理念を再構築。
結果、新しい理念は以下のように刷新されました。
「街と人の未来を創る、“現場主義”の建設カンパニー」
この新しい理念は、職人肌の企業文化を活かしつつ、未来志向を打ち出したものになりました。
今では朝礼や名刺にも使用され、若手の離職率も改善したそうです。
まとめ
企業理念の見直しは、「変化」に対応するための大切な経営判断です。
次の章では、これまで紹介してきた知識や事例を整理し、今日からできるアクション3つとともに、企業理念を“動かす力”に変える視点をお届けします。
【第8章】まとめと感想|理念が“組織の背骨”になる
経営理念――それは、会社の「額縁に飾るスローガン」ではありません。
事業の方向性、社員の行動、組織文化、すべての根っこに関わる“背骨”です。
この章では、これまでの内容を振り返りつつ、今日から始められる3つのアクションを紹介します。
そして最後に、筆者からお伝えしたい「理念の本質的な意味」についても一言添えさせてください。
各章の要点振り返り
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第1章では、「企業理念」の定義や、ミッション・ビジョン・バリューの構造を明らかにしました。
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第2章では、トヨタや京セラなど、強い企業の理念に共通する“言葉の力”を分析しました。
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第3章では、理念策定の5ステップと、現場を巻き込む方法を解説しました。
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第4章では、業種別・タイプ別に見た理念の表現方法に触れました。
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第5章では、スタートアップや中小企業が持つ“等身大の理念”の強さを取り上げました。
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第6章では、作った理念を社内に浸透させる工夫を共有しました。
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第7章では、理念の見直しのタイミングと進め方、実例を紹介しました。
どの章にも共通していたのは、「理念はつくって終わりではなく、“使ってこそ価値がある”」という視点です。
今すぐできる3つのアクション
ここで、この記事を読んでくださった皆さんが、明日から取り組めるアクションを3つお伝えします。
① 他社理念の棚卸し
まずは、気になる企業10社の理念をピックアップし、共通点や違いを分析してみましょう。
理念は「真似してはいけない」ものではありません。
むしろ、良い事例から学び、自社に合う“言葉の型”を見つけることがスタートです。
② 理念見直しの社内会議を企画する
次に、理念を議題にした社内対話の場を設けてみましょう。
形式ばった会議ではなく、「うちって、何を大事にしてる会社なんだっけ?」と語り合える雰囲気が理想です。
そこにヒントが眠っています。
③ 社内で“語れる”理念に変換する
最後に、すでにある理念が社員の口から語られるような表現になっているかをチェックしましょう。
覚えづらく、抽象的な理念なら、サブメッセージやスローガンをつくって補強するのも一手です。

理念は覚えていなければ、存在していないのと同じですね。
最後に:「理念は掲げるものでなく、使うもの」
筆者がこれまで携わってきた企業の中で、理念が“機能している”組織は驚くほど強いと感じています。
理念を“使っている”企業は、ブレません。
評価制度にも、採用にも、日々の会話にも、理念がにじみ出ています。
一方、理念を“飾っているだけ”の企業は、経営の節目で迷います。
言葉が経営に寄り添っていないからです。
理念とは「指針」であり、「軸」であり、経営者や社員が“立ち戻る場所”です。
そして何より、「言葉は行動を変える力を持っている」。
それを実感できるのが、企業理念の面白さです。

理念こそが、組織にとって“見えないエンジン”なのかもしれませんね。
次回は、実際に理念策定に取り組んだ経営者のリアルな声や、ワークショップの事例も紹介していきます。