カスタマーハラスメントとは?被害実態と企業が取るべき具体策を徹底解説

人事・労務

「カスハラ」は今や社会問題。サービス業を中心に、従業員の精神的ストレスや離職を引き起こす要因となっています。
パーソル総合研究所の調査によると、約35.5%の労働者がカスハラの被害を経験。にもかかわらず、7割の企業が対策を講じていないという現状です。
本記事では、カスハラの最新データを基に、企業が取るべき対策や導入しやすいマニュアルをご紹介。
今こそ、従業員を守るための仕組み作りを始めましょう。

第1章:カスタマーハラスメントとは?その定義と実態

カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義

近年、企業の現場で深刻化しているカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)という問題。
一昔前までは「クレーム対応」の一環として処理されていたが、今では従業員の精神的負担や企業経営に影響を及ぼす深刻な社会問題
として認識されるようになった。

では、カスハラとは具体的にどのような行為を指すのか。
厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策マニュアル」によると、カスハラは「顧客や取引先からの悪質なクレームや嫌がらせ行為のうち、従業員の業務遂行に支障をきたし、心身に著しい負担を与えるもの」と定義されている。

簡単に言えば、「正当なクレーム」ではなく、従業員を不当に攻撃し、過剰な要求を突きつける行為がカスハラというわけだ。

厚労省が示すカスハラの代表例は以下の3つに分類される。

  1. 暴言・脅迫型:「お前なんかクビにしてやる!」「土下座しろ!」などの威圧的な言動
  2. 過剰な要求型:「今すぐ上司を呼べ!」「特別待遇しろ!」といった理不尽な要求
  3. 執拗なクレーム型:「何度でも電話する!」「対応が気に入らない!」と繰り返し苦情を申し立てる行為

このような行為が日常的に発生しているにもかかわらず、「お客様第一主義」の名のもとに見過ごされてきた企業も多い

「お客様は神様」なんてもう古い時代の話ですね。今は従業員を守ることこそが企業の責任なんです。

なぜカスハラが問題視されるのか?

カスハラが社会問題として取り上げられる背景には、働く環境の変化や労働者の意識の変化がある。
特に問題視される理由は、次の3点に集約される。

1. 従業員のメンタルヘルス悪化

カスハラを受けることで、従業員のストレスが増大し、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすケースが多い。
厚生労働省の調査では、ハラスメント被害を受けた従業員の約40%が「仕事を辞めたい」と考えた経験があると報告されている。
カスハラを放置することで、従業員の離職率が上がり、職場の士気が低下することは避けられない。

2. 企業のブランドイメージの低下

「カスハラに適切な対応をしない企業」というイメージが広まれば、企業のブランド価値が下がり、消費者の信頼を失うことにもつながる。
近年はSNSでの情報拡散が速いため、一度「劣悪な職場環境」と認識されると、採用活動にも悪影響を及ぼすのが現実だ。

3. 法的リスクの増大

カスハラを適切に対処しなかった企業は、労働安全衛生法や労働基準法に基づく安全配慮義務を果たしていないとみなされる可能性がある
場合によっては、労働者が企業に対して「職場環境配慮義務違反」として損害賠償を請求するケースも出てくるだろう。

「カスハラを放置すると、企業は従業員だけでなく、自分の首も絞めることになるんです。」

パーソル総合研究所の調査結果から見る被害実態

カスハラがどれほど深刻な問題なのか、具体的なデータを見てみよう。

パーソル総合研究所が行った調査によると、サービス業に従事する労働者の35.5%がカスハラ被害を経験しているという。
特に被害率が高かったのは以下の職種だ。

  • 介護・福祉系専門職員:54.2%
  • 飲食業従事者:42.8%
  • 小売業(スーパー・コンビニなど):39.7%

特に介護・福祉の分野では、「利用者やその家族からの暴言・暴力」が問題になっており、カスハラによる離職率の増加が懸念されている。

また、カスハラの加害者の約70%が「高齢者」であるというデータもあり、高齢化社会がこの問題をさらに悪化させている可能性が高い。

企業や従業員が直面する課題とは?

カスハラの問題がここまで深刻化しているにもかかわらず、多くの企業は未だに有効な対策を講じていないのが実情だ。
その背景には、次の3つの課題がある。

1. 企業の対応マニュアルの未整備

多くの企業では、従業員がカスハラに直面した際の具体的な対応方法が決まっていない
その結果、現場スタッフが個々の判断に任され、精神的負担が大きくなってしまうのだ。

2. 「お客様第一主義」の根強さ

「クレームは全て対応すべき」「お客様に逆らうな」といった考え方が、未だに多くの企業に根付いている。
しかし、これは従業員を守るための視点が欠けている
時代の流れに合わせ、企業は「従業員を守る責任」を果たすべきだ。

3. 法的対応への不安

「カスハラに法的措置を取るべきか?」と悩む企業も多い。
実際、法的対応を進めるためには証拠の収集や弁護士との連携が不可欠であり、手間がかかることも事実だ。
しかし、適切な対策を怠ると、企業の存続そのものが危うくなる可能性がある。

まとめ

カスハラは、単なる「顧客対応のトラブル」ではなく、企業全体の経営戦略に関わる重大な問題である。

次章では、実際に発生したカスハラ事例を紹介し、「どんな行為がカスハラに該当するのか?」を詳しく解説していく。

第2章:カスハラの具体例|どんなケースが該当する?

カスタマーハラスメント(カスハラ)の実態を理解するためには、具体的な事例を知ることが重要だ。
一口にカスハラと言っても、その形態はさまざまであり、企業や業種によって発生するケースも異なる。

本章では、カスハラの代表的な種類と、実際に起こったエピソードを紹介し、企業が対応を誤るとどうなるのかを考察する。

カスハラの主な種類(暴言・脅迫、過剰な要求、SNS炎上など)

厚生労働省のガイドラインでは、カスハラの行為を大きく3つに分類している。

  1. 暴言・脅迫型
     └ 罵倒・恫喝・土下座の強要など、威圧的な言動で従業員を精神的に追い詰める。

  2. 執拗なクレーム型
     └ 無償対応の要求や、何度も同じクレームを繰り返す行為。

  3. 悪質なSNS拡散型
     └ SNSを使い企業や従業員を攻撃し、誹謗中傷を拡散する行為。

これらの行為が、企業の現場でどのように発生しているのか、実際の事例を見ていこう。

ケース1:「土下座しろ!」暴言・脅迫型

エピソード|コンビニ店員・佐藤直人さん(仮名)の場合

深夜のコンビニ。
レジ担当の佐藤直人さん(仮名)が接客していると、一人の中年男性が店内に入ってきた。
男性は酒に酔っており、購入した商品に不満を持ったのか、突然「レジの打ち間違いだろ!」と怒鳴り出した。

佐藤さんはレシートを確認し、間違いがないことを丁寧に説明したが、男性の怒りは収まらない。
「客を騙すのか!土下座して謝れ!」と叫び、他の客の前で屈辱的な要求を突きつけてきた。

佐藤さんは毅然とした態度で「お客様に土下座する義務はございません」と断ったが、男性は店内で大暴れ。
最終的に、店長が警察を呼び、ようやく事態は収束した。

企業側の対応のポイント
  • 土下座の強要は強要罪(刑法223条)に該当する可能性があるため、毅然と対応する。
  • 早い段階で警察や上司に相談し、従業員を守ることが重要。
  • 防犯カメラの映像を活用し、証拠を残す。

「土下座を強要するのは完全アウトです。店側も毅然と対応しないといけないですね。」

ケース2:「無償対応しろ!」執拗なクレーム型

エピソード|家電量販店のクレーム対応係・高橋真由美さん(仮名)の場合

家電量販店で働く高橋真由美さん(仮名)は、クレーム対応の担当者だ。
ある日、一人の顧客が「購入した家電が動かない」と来店した。

高橋さんが商品をチェックすると、明らかに顧客の過失で故障していた
保証の範囲外であるため「修理には費用がかかる」と説明したが、顧客は納得しない。

「ふざけるな!お前が金を出せ!」
「何度でも来るからな!タダで直せるまで帰らない!」

顧客は1週間にわたり、毎日店舗に来ては大声で怒鳴り、他の客にも「この店は詐欺だ!」と吹聴した。
企業側は「長引かせるのは得策ではない」と判断し、最終的に無償修理を認めてしまった

企業側の対応のポイント
  • 執拗なクレームに屈すると、他の客にも同様の対応を迫られる恐れがある。
  • クレームの基準を明確にし、ルールを一貫させることが重要。
  • 店舗スタッフではなく、本社のカスタマーサポート部門で対応する体制を整えるのも有効。

「一度無償対応してしまうと、次から次へと同じ要求が来るんですよ…。」

ケース3:「ネットに晒すぞ!」悪質なSNS拡散型

エピソード|レストラン経営者・木村健一さん(仮名)の場合

都内でレストランを経営する木村健一さん(仮名)は、ある日、常連客からのクレーム対応に頭を悩ませていた。

その客は毎回料理を完食した後、「味が悪かった」と無理な割引を要求してきた。
木村さんが「食べ終わった後の割引はできません」と断ると、客はスマホを取り出し、こう言った。

「この店、対応最悪ってSNSに書いてやるぞ!」

その後、実際に「この店はぼったくり」「店員の態度が最悪」といったデマが拡散され、口コミ評価は急落。
SNSの影響力は大きく、常連客だったはずの人々まで店に来なくなってしまった。

企業側の対応のポイント
  • SNS炎上対策として、公式アカウントで迅速に事実を発信することが重要。
  • 記事や投稿を証拠として保存し、必要に応じて法的措置を検討する。
  • 事実無根の誹謗中傷には、弁護士を通じて「名誉毀損罪」(刑法230条)や「業務妨害罪」(刑法233条)として対応可能。

企業側の対応が遅れるとどうなる?

もし企業側がカスハラに適切に対応しなかった場合、次のような影響が生じる。

  1. 従業員のモチベーション低下・離職の増加
  2. 他の顧客への悪影響(店内での騒動、SNSでの拡散)
  3. 企業のブランドイメージの低下と売上の減少

カスハラは「一時的な問題」ではなく、企業の存続にも関わる重大な課題だ。

まとめ

本章では、暴言・脅迫型、執拗なクレーム型、SNS拡散型の3つのカスハラの事例を紹介した。

次章では、なぜカスハラ対策が進まないのか?
企業が抱える課題とその背景について詳しく解説していく。

第3章:カスハラ対策の現状|企業の対応は十分か?

カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題として注目されるようになったにもかかわらず、多くの企業は適切な対応を取れていないのが現実だ。
では、なぜ企業はカスハラ対策を進められないのか?
本章では、企業の現状をデータを基に分析し、実際に対策を進めた企業の成功事例を紹介する。

東京商工リサーチの調査:7割の企業が未対策

カスハラ問題の深刻さを示すデータとして、東京商工リサーチの2023年調査を見てみよう。
この調査では、「カスハラ被害を受けた企業」のうち約7割が、具体的な対策を講じていないことが明らかになっている。

つまり、実際にカスハラ被害を受けている企業の多くが、放置状態になっているということだ。
なぜ、このような状況になっているのだろうか?

企業のカスハラ対策不足の理由とは?

企業がカスハラ対策を進められない背景には、いくつかの要因がある。
主な理由として、以下の3つが挙げられる。

1. 「お客様第一主義」の名残

「お客様は神様」という考え方は、今でも日本の企業文化に根強く残っている。
特に、接客業やサービス業では、顧客の機嫌を損ねることを極端に恐れる傾向が強い。

しかし、この考え方が従業員を苦しめる原因になっているのは明らかだ。
企業側が「クレームは全て対応すべき」という意識を変えなければ、カスハラの被害は減らない。

「顧客満足も大事だが、それよりも従業員を守ることが先だろう。」

2. 対応マニュアルや社内ルールが未整備

企業の多くは、パワハラやセクハラには厳しく対策を講じているが、カスハラについては対応が遅れている。
その理由の一つが、明確なマニュアルやルールの欠如だ。

「どこまで対応すべきか?」「どの段階で上司に報告すべきか?」といった基準が曖昧なまま、
従業員が個々の判断に任されているケースが多い。

特に、新人やアルバイトのスタッフは、適切な対応を知らないため、精神的に追い詰められてしまう

3. 法的リスクを恐れ、強く対応できない

カスハラの加害者は、「訴えてやる!」「ネットで晒すぞ!」と脅してくることが多い。
企業側も「無駄なトラブルを避けたい」という心理が働き、法的措置に踏み切れないケースが多い。

しかし、対応を間違えれば、逆に企業が訴えられるリスクもある。
法的リスクと向き合う姿勢が求められている。

「クレームを恐れて対応を怠ると、結局、企業の評判を落とすことになるんです。」

すでに対策を進める企業の成功事例

すべての企業がカスハラに無策なわけではない。
中には、積極的な対策を講じ、成果を上げている企業も存在する
以下に、具体的な事例を2つ紹介する。

事例1:コールセンターでのルール策定

【企業:大手通信会社】

コールセンター業務は、特にカスハラの被害が多い業種の一つだ。
大手通信会社では、顧客からの暴言・威圧的なクレームに対するガイドラインを策定し、以下のようなルールを導入した。

  • 1回目のクレーム:通常対応
  • 2回目のクレーム:注意喚起
  • 3回目のクレーム:対応を打ち切り、上司にエスカレーション
  • 暴言や脅迫があった場合:即時警察に通報

これにより、従業員が一人でクレーム対応に苦しむことがなくなり、離職率の低下にもつながった

事例2:小売業での「NO」と言える風土作り

【企業:全国展開のスーパーマーケット】

この企業では、カスハラに対する従業員の「拒否権」を明確にし、以下のような取り組みを実施した。

  • 店頭に「理不尽な要求には対応しません」のポスターを掲示
  • 従業員がクレーム対応を拒否できる制度を導入
  • 防犯カメラの映像を活用し、悪質な客には出入り禁止措置を適用

この取り組みの結果、悪質なクレームが減少し、従業員の精神的な負担が軽減された
また、常連客からは「従業員を守る姿勢が好感を持てる」との声も多く寄せられた。

まとめ

本章では、企業のカスハラ対策の現状と、対策が進まない理由、成功事例を紹介した。

結論として、カスハラ対策が遅れている企業ほど、今後の経営リスクが高まることは明白だ。

次章では、企業がカスハラを防ぐためにどのような対策を講じるべきか?
具体的な取り組みを詳しく解説していく。

第4章:カスハラ被害を防ぐための企業の対策とは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)の被害を防ぐためには、企業が主体となって明確なルールを策定し、現場の従業員を守る仕組みを整えることが不可欠だ。
しかし、多くの企業では「どう対策すればいいのか分からない」「対応を間違えたくない」という迷いがあり、具体的な対策に踏み切れていないのが実情だ。

本章では、カスハラ被害を防ぐための企業の具体的な対策について、事前対策・現場対応・経営層の取り組みの3つの視点から詳しく解説する。

【事前対策】企業が導入すべき3つの施策

カスハラ対策は、現場で被害が発生してから動くのでは遅い
企業が未然にトラブルを防ぐためには、以下の3つの施策が必要だ。

1. カスハラ対応マニュアルの整備

まず、企業が最優先で取り組むべきは**「カスハラ対応マニュアル」の作成**だ。
なぜなら、カスハラの対応が個人の判断に委ねられていると、従業員が精神的に追い詰められるだけでなく、対応のバラつきが生じるからだ。

具体的なマニュアルには、以下のような内容を盛り込むべきだ。

  • カスハラの定義と具体例(暴言・脅迫型、執拗なクレーム型、SNS拡散型など)
  • 対応フローの明確化(どの段階でエスカレーションするのか?)
  • 対応可能な範囲と線引き(どの要求は受け入れ、どこから拒否するのか?)
  • エスカレーションルール(上司・本社・弁護士・警察への連絡基準)

企業の実態に合わせたマニュアルを整備することで、従業員が適切に行動できる指針を持つことができる

「現場任せではダメですね。マニュアルがあれば、従業員も安心して対応できるんです。」

2. 従業員向け研修・教育の実施

マニュアルを作成するだけでは不十分だ。
それを実際の業務で活かすためには、従業員向けの研修・教育を実施する必要がある

具体的には、次のような研修が有効だ。

  • カスハラ対応ロールプレイ研修(実際の対応を想定したトレーニング)
  • 法的知識の共有(カスハラに該当する行為と法的措置)
  • メンタルヘルスケア研修(ストレス管理と適切な相談方法)

特に、新入社員やアルバイトには、クレーム対応の基礎を徹底的に教育することが重要だ。

3. 社内外の連携強化(弁護士・労働組合・警察)

カスハラ対応は、企業内部だけで完結できるものではない
社内だけでなく、外部の専門機関との連携を強化することが必要だ。

  • 弁護士:法的措置のアドバイス、警察対応の基準作り
  • 労働組合:従業員のメンタルケア、相談窓口の設置
  • 警察:暴力や脅迫に発展した際の対応協議

例えば、ある企業では、悪質なカスハラ案件をすぐに弁護士にエスカレーションする仕組みを導入し、従業員の負担軽減につなげた事例もある。

【現場対応】従業員が取るべき3つの行動

事前対策を整えても、現場で適切に対応できなければ意味がない。
カスハラの被害を受けた際に、従業員が取るべき3つの行動を紹介する。

1. 毅然とした態度を取る

カスハラの加害者は、「この従業員は押せば対応してくれる」と判断すると、よりエスカレートした要求をしてくる傾向がある。
そのため、最初の対応が非常に重要だ。

毅然とした態度とは、具体的に以下のような行動を指す。

  • 理不尽な要求には「できません」とはっきり伝える
  • 威圧的な態度には「そのような言い方はお控えください」と指摘する
  • 決して謝らない(企業側に非がない場合)

ただし、感情的にならず、冷静な口調を保つことがポイントだ。

2. 記録を残す

カスハラの対応では、「言った・言わない」のトラブルを防ぐために、証拠を残すことが不可欠だ。
具体的には、以下の方法で記録を残すとよい。

  • 会話を録音する(顧客対応専用のICレコーダーを用意する)
  • メモを取る(日時・内容・相手の発言を記録)
  • 監視カメラの映像を活用する(防犯カメラのデータを保存)

特に、暴言や脅迫があった場合は、法的対応のためにも証拠の確保が重要になる。

3. 上司や法的機関に報告する

「自分だけで対応しなければならない」と思い込むと、従業員の精神的負担が増大する。
そのため、対応が難しいと感じたら、すぐに上司や専門機関に相談することが重要だ。

  • 社内の相談窓口を活用する
  • 暴力・脅迫があった場合は警察に通報する
  • 法的措置を検討する場合は弁護士に相談する

【経営層の取り組み】トップダウンで対策を進めるべき理由

カスハラ対策は、現場の従業員に押し付けるだけでは解決しない。
企業全体の方針として「カスハラに屈しない姿勢」を示すことが重要だ。

経営層がやるべきことは以下の3つだ。

  1. カスハラ対策の方針を明文化し、社内外に発信する
  2. 従業員が安心して働ける環境を整える(社内サポート体制の強化)
  3. カスハラを許さない企業文化を醸成する(定期的な研修・啓発活動)

トップダウンで動くことで、現場の従業員が安心して業務に従事できる環境を作ることができる

まとめ

本章では、カスハラを防ぐための具体的な対策を紹介した。

次章では、カスハラ対応における法的措置について詳しく解説する。
企業はどこまで法的対応ができるのか?
実際の裁判例や法的リスクについて、分かりやすく解説していく。

第5章:法的対応と企業リスク|カスハラへの法的措置

カスタマーハラスメント(カスハラ)は単なる接客トラブルではなく、場合によっては犯罪行為に該当する
企業としても、適切な法的対応を取らなければ、従業員の安全が守られないだけでなく、企業側が責任を問われる可能性もある。

本章では、カスハラに関連する現行法、最新の法的動向、企業が取るべき法的対応のポイントについて詳しく解説する。

【法律の現状】現行法でカスハラはどう扱われる?

現在、日本の法律には「カスタマーハラスメント罪」という特定の法律は存在しない。
しかし、カスハラの行為が刑法や労働基準法に抵触するケースは多々ある。

1. 刑法:脅迫罪・強要罪・業務妨害罪など

顧客の行為がエスカレートし、以下のようなケースに該当すれば刑法で処罰の対象となる。

脅迫罪(刑法第222条)

「お前の家を突き止めてやる」「会社に嫌がらせしてやる」
こうした発言は脅迫罪に該当し、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性がある。

強要罪(刑法第223条)

「土下座しろ!」「誤った対応をしたんだから、謝罪動画を撮れ!」
このように、相手に無理やり行動を強要する行為は強要罪に該当し、3年以下の懲役が科される。

偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪(刑法第233条・234条)

「SNSに悪評を書き込んでやる」「お前の会社にクレームの電話を何十回も入れる」
こうした行為は業務妨害罪に該当し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性がある。

「脅しや過剰な要求を受けたら、それは『単なるクレーム』じゃなくて犯罪です。」

2. 労働基準法:労働環境の保護義務

企業がカスハラ対策を怠ると、労働基準法に基づく「労働環境配慮義務違反」とみなされる可能性がある。

労働安全衛生法(労働環境の保護義務)

労働安全衛生法第3条では、「企業は労働者の安全と健康を確保する義務がある」とされている。
つまり、企業がカスハラ被害を放置すれば、労働環境配慮義務違反に問われる可能性があるのだ。

企業が法的責任を問われた事例として、「過労死訴訟」や「職場のメンタルヘルス訴訟」がある。
カスハラによって精神的負担を強いられ、適切なサポートがなかった場合、従業員から企業が訴えられるケースも考えられる

【最新動向】東京都「カスタマーハラスメント防止条例」(2025年施行予定)

2025年4月から、東京都では「カスタマーハラスメント防止条例」が施行される予定だ。
この条例のポイントは、以下の3つである。

  1. 企業に対し、カスハラ対策の義務を課す
     └ マニュアル整備、研修の実施、相談窓口の設置を求める。

  2. 悪質なカスハラ加害者に対する行政指導
     └ 繰り返しハラスメント行為を行う顧客には、自治体が介入する。

  3. 従業員の安全を守るための法的措置
     └ 警察や弁護士との連携を促し、企業が迅速に対処できる体制を作る。

東京都のこの条例は、全国的なカスハラ対策のモデルケースとなる可能性が高い。
今後、他の自治体でも同様の条例が制定される可能性があるため、全国の企業が注視するべき動向である。

「カスハラ対策が『企業の努力義務』から『法的義務』になるのは大きな変化だな。」

【法的対応のポイント】企業はどこまで対応すべきか?

企業がカスハラに法的対応を行う際、重要なのは「証拠を確保する」「専門機関と連携する」「適切な通報基準を持つ」の3点だ。

1. 証拠を残す(録音・メモ・カメラ映像)

法的措置を取るには、「カスハラが実際に発生した」ことを証明する証拠が不可欠だ。
企業は以下の方法で証拠を確保すべきである。

  • 音声録音:暴言や脅迫の内容を記録する(ICレコーダー、録音アプリの活用)
  • メモ・報告書:日時、場所、相手の言動を詳細に記録する
  • 監視カメラ映像:暴力行為や威圧的な態度を証拠として残す

2. 弁護士・労働局への相談

企業は、カスハラの対応を弁護士や労働局と連携して進めるべきだ。

  • 弁護士:法的措置を取る際の助言・対応基準の策定
  • 労働局:労働環境の改善指導や助言

特に、顧客との法的トラブルが発生した場合は、弁護士の関与が不可欠となる。

3. 警察への通報の基準

カスハラの中には、明らかに犯罪行為に該当するケースもある。
警察に通報すべき基準は以下の通り。

  • 暴力行為があった場合(殴る・蹴る・物を投げる)
  • 脅迫・恐喝があった場合(「殺してやる」「会社を潰す」などの発言)
  • 業務妨害が継続している場合(執拗なクレーム、長時間の居座り)

企業側は、「警察に相談する基準」をマニュアル化し、現場スタッフが迷わず対応できる仕組みを整えておくことが重要だ。

まとめ

本章では、カスハラに対する法的対応と企業のリスク管理について解説した。

次章では、カスハラ対策に役立つ厚生労働省のガイドラインや、企業向けのリソースについて紹介する。
実際に使える資料やツールを活用し、企業のカスハラ対策をより強化していこう。

第6章:すぐに活用できるカスハラ対策リソース

カスタマーハラスメント(カスハラ)の対策は、企業が独自に一から作る必要はない。
厚生労働省をはじめとする公的機関や、各種専門機関が提供する無料のリソースを活用すれば、スムーズに対策を進めることが可能だ。

本章では、すぐに活用できるカスハラ対策リソースとして、厚生労働省のガイドライン、企業向けの無料ツール、相談窓口の情報を紹介する。

厚生労働省のガイドライン

カスハラ対策を考えるうえで、まず参考にすべきなのが厚生労働省のガイドラインだ。
2022年に厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、多くの企業が指針として活用している。

このガイドラインでは、以下のようなポイントが示されている。

  1. カスハラの定義と分類
     └ 暴言・脅迫型、過剰な要求型、執拗なクレーム型など

  2. 企業の対応方針
     └ 企業として「カスハラを許さない姿勢」を示し、ルールを明確にする

  3. 従業員を守るための具体的な対応策
     └ 事前対策、対応フロー、法的措置の取り方など

  4. 相談窓口や専門機関との連携
     └ 労働局・警察・弁護士との適切な連携方法

このマニュアルを活用することで、企業はカスハラ対応の基礎を固めることができる

「公的な指針があると、社内でのカスハラ対策の説得力が増しますね。」

「カスタマーハラスメント対策マニュアル」活用法

厚生労働省が提供する「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、無料でダウンロードできる。
このマニュアルの活用法として、以下の3つのステップが有効だ。

1. 企業のカスハラ対応方針を明確化する

まずは、マニュアルに基づいて自社のカスハラ対応の基本方針を定める
特に重要なのは、「どのような行為をカスハラとみなすのか?」を明確にすることだ。

2. 社内向けのマニュアルを作成する

厚生労働省のマニュアルを基に、自社独自の対応マニュアルを作成する
業種や業務内容に合わせて、実際の現場に即した対応ルールを盛り込むことが大切だ。

3. 従業員研修に活用する

作成したマニュアルを、従業員教育の教材として活用する
特に、新人研修や管理職向けの教育プログラムに組み込むことで、組織全体のカスハラ対応力を高めることができる

企業向け無料リソース

カスハラ対策を進めるにあたり、無料で利用できる各種リソースを活用するのも有効だ。

カスハラ対応ポスター・マニュアル・研修動画のダウンロード方法

以下の機関では、カスハラ対策に役立つポスターや研修動画を提供している

  • 厚生労働省
     └ 「カスタマーハラスメント防止ポスター」(店内掲示用)
     └ 「企業向けカスハラ対応研修動画」(オンライン研修用)
     └ 「カスハラ対応チェックリスト」(社内研修用)

  • 全国の労働局
     └ 職場向けハラスメント対策パンフレット(PDF形式で無料ダウンロード可能)

  • 業界団体(日本小売業協会・日本フードサービス協会など)
     └ 小売・飲食業向けのカスハラ対策ガイドライン

これらのツールを活用すれば、企業は費用をかけずに、即座にカスハラ対策を強化することができる

専門機関・相談窓口一覧

カスハラ対応に困った場合は、企業単独で対応しようとせず、専門機関のサポートを活用することが重要だ。

労働基準監督署

労働基準監督署は、職場のハラスメント問題に関する相談窓口を設けており、カスハラに関する助言も行っている

  • 対象:企業の人事担当者・管理職・従業員
  • 相談内容:カスハラ被害の報告、企業の対応策の相談
  • 利用方法:最寄りの労働基準監督署に電話または窓口で相談

企業向けハラスメント相談窓口

企業がカスハラ対応を進める際、以下の相談窓口を活用できる。

  • 厚生労働省「職場のハラスメント相談窓口」
     └ 企業向けのハラスメント相談を受け付け、対応策を助言する
  • 日本労働組合総連合会(連合)
     └ 労働者の権利を守るため、カスハラ問題についても相談対応可能
  • 商工会議所・業界団体の相談窓口
     └ 業種ごとのカスハラ事例に応じたアドバイスを提供

特に、弁護士や労働組合との連携を取ることで、企業の法的対応をスムーズに進めることができる

「カスハラの悩みを企業だけで抱え込む必要はないんです。」

まとめ

本章では、企業がすぐに活用できるカスハラ対策リソースを紹介した。
企業が独自に対策を講じるのではなく、公的なリソースを活用すれば、より効率的かつ確実に対策を進めることができる

次章では、本記事のまとめとして、企業が今すぐ取り組むべきカスハラ対策の最重要ポイントを整理する。
カスハラに悩む企業は、どのように組織を変えていくべきなのか?
最終章で詳しく解説していく。

第7章:まとめと感想|カスハラ対策は企業の未来を守る

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、企業にとって単なるクレーム対応の問題ではない。
適切な対策を取らなければ、従業員の精神的負担が増大し、企業の信頼や経営自体にも影響を及ぼす
では、企業は今後、どのような対策を講じるべきなのか?

本章では、企業がカスハラ対策を怠るリスクと、具体的に取るべき3つのアクションを解説し、カスハラを防ぐために今すぐ始めるべきことを整理する。

企業の「未対策」がもたらすリスク

カスハラ対策を怠る企業は、次のようなリスクに直面することになる。

1. 従業員のモチベーション低下・離職の増加

カスハラの被害を受け続けた従業員は、精神的に疲弊し、最終的に退職を選ぶ可能性が高い
厚生労働省の調査では、カスハラ被害を受けた従業員の40%以上が「仕事を辞めたい」と感じたことがあると報告されている。
特に、接客業・小売業・医療・介護業界では、人手不足が深刻なため、カスハラによる離職が経営に直接影響を与える。

2. 企業ブランドの低下

「従業員を守れない企業」というレッテルを貼られれば、消費者からの信頼も低下する
特に、SNSでの拡散が容易な現代では、カスハラの被害を受けた従業員が企業の対応を暴露し、大きな批判を招くケースもある。

3. 法的リスクの増大

企業が従業員の安全を守らず、適切なカスハラ対策を講じなかった場合、
労働基準法違反や労働安全衛生法違反に問われる可能性がある
また、カスハラを放置した結果、企業が訴えられるリスクも考えられる。

「未対策」=企業存続の危機に直結する時代が来ている。


企業が取るべき3つのアクション

では、企業はどのような対策を講じるべきなのか?
カスハラ対策を成功させるために、企業が今すぐ取り組むべき3つのアクションを紹介する。


1. 現場に合ったマニュアルを作成する

カスハラ対策の第一歩は、企業の現場に即した「カスハラ対応マニュアル」を作成することだ。
多くの企業では、マニュアルがあっても「実際の現場に適用できない」「想定が甘い」といった課題がある。
そのため、各現場の実態に合わせた、リアルなケースを反映したマニュアル作りが求められる。

マニュアルには以下の項目を盛り込むべきだ。

  1. カスハラの定義と具体例の明記(何がカスハラに該当するのか?)
  2. 対応フローの確立(どの段階で上司・法的機関に報告すべきか?)
  3. カスハラを受けた際の従業員の行動指針(毅然とした対応のポイント)
  4. 法的対応の基準と手続き(警察に通報する基準・弁護士への相談基準)

マニュアルは、ただ作るだけでなく、定期的にアップデートし、現場の声を反映させることが重要だ。

2. 従業員に毅然とした対応を促す

カスハラの加害者は、「この従業員は押せば言うことを聞く」と判断すると、要求をエスカレートさせる傾向がある。
そのため、企業は「毅然と対応する文化」を作る必要がある

具体的な施策としては、

  • カスハラ対応の研修を実施し、「NO」と言えるスキルを身につける
  • 社内で「理不尽なクレームには応じない」ことを明確にする
  • 店頭や受付に「従業員へのハラスメントを禁止する」旨の掲示を行う

企業のトップが「カスハラには屈しない」方針を明確にし、従業員が自信を持って対応できる環境を作ることが重要だ。

3. 法的知識を持ち、適切な対応を徹底する

カスハラの被害を受けた場合、企業としてどのような法的措置を取るべきかを知ることが不可欠だ。

最低限、以下の法的知識を社内で共有しておくべきである。

  1. 脅迫・強要・業務妨害に該当するケースでは、刑法違反として警察に通報可能
  2. 企業は労働安全衛生法に基づき、従業員を守る義務がある
  3. 証拠(録音・メモ・カメラ映像)を残し、法的対応をスムーズに進める
  4. カスハラが続く場合は、弁護士と連携して対応する

また、社内に「法務担当者」や「専門の相談窓口」を設置し、迅速な対応ができる仕組みを整えることも有効だ。

企業の未来を守るために、今すぐ始めるべきこと

カスハラ対策を怠れば、企業の信用・従業員の健康・経営の安定がすべて危機にさらされる
そのため、企業は今すぐに対策を始めるべきだ。

具体的には、次の3つを実行することが重要だ。

  1. 「カスハラ対応マニュアル」を作成し、現場で実践できる形にする
  2. 毅然とした対応を従業員に促し、カスハラを許さない風土を作る
  3. 法的対応の基準を明確にし、必要ならば警察や弁護士と連携する

企業が本気でカスハラ対策に取り組めば、従業員は安心して働ける環境が整い、組織の士気が向上する
そして、それは結果として企業の未来を守ることにもつながる

カスハラは放置すれば悪化するだけだ。
今こそ、企業として本気で向き合う時ではないだろうか?

まとめ

本記事では、カスタマーハラスメントの定義から、企業の対応策、法的対応、利用できるリソースまでを詳しく解説した。
カスハラは「いつか解決する」問題ではなく、企業の未来を左右する重要課題だ。

企業のトップが「従業員を守る」という強い姿勢を示し、組織全体でカスハラ対策に取り組むことが求められる。
今後、カスハラを許さない企業文化が広がり、すべての従業員が安心して働ける社会になることを願ってやまない。

タイトルとURLをコピーしました